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藤沢周平全集 第2巻 市井小説短篇(2)

藤沢 周平
文藝春秋
藤沢周平全集第2巻
p605


昭和50年から53年の短編、30編を収める。

風景描写というのは、背景や状況の説明に用いられる部分で、たいていの場合は退屈である。
できればなくしてもらいたいぐらいのものなので、ふつうはさっと読んでしまう。

すぐれた作者の場合は、そうはいかない。

田舎の子供のころ、ふと感じた寂寥感を、これほど見事にあわらしてる文章は初めてだ。
どうしてこんなことを覚えているのだろう。

 川端を歩きながら、市兵衛は不意に寂寥が胸を満たすのを感じた。
 市助と呼ばれていた子供の頃、眼覚めたら家の中に誰もいなかったことがある。山にも野にも、まだ雪が残っている春先のことだったが、開け放した戸口から、市助が眼覚めた炬燵の裾まで射しこんでいる日射しは、柔らかい春の色をしていた。囲炉裏に薪がくすぶり、藁むしろの上には、剥きかけの豆と豆殻がそのままあって、ついさっきまでそこに母親が坐っていたことを示している。
 市助は外に出た。蒼く硬い色をした空がひろがり、寒気が市助の頬を刺した。日は山陰に隠れるところで、青白い雪と、いくぶん紅味を増した雑木林の枝に覆われた山の傾斜から、大きな束のような光が村に流れ込んできている。その中である家の壁は光り、すでに日没の暗さをまとい始めていた。道には汚れた雪が残り、その間にところどころ乾いた地面が顔をのぞかせている。
 地面には、子供たちが描き残した図面の痕や、石蹴りの石が残っていたが、子供たちの姿は一人も見えなかった。子供たちだけでなく、母親も、村人の姿も現れず、村はひっそりしたままで、何の物音も聞こえて来なかった。
 そのときの、天地にただ一人取り残されたようだった淋しさが、いま市兵衛の胸を満たしている。
(「冬の潮」p22)


【収録作品】
冬の潮、意気地なし、秘密、しぶとい連中、石を抱く、暁のひかり、龍を見た男、夜の橋、拐し、神隠し、閉ざされた口、闇の穴、年目、気、荒れ野、春の雪、遠い少女、昔の仲間、疫病神、裏切り、夕べの光、冬の足音、暗い渦、うしろ姿、告白、捨てた女、夜の雷雨、暗い鏡、人殺し、朝焼け



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