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介護保険論―福祉の解体と再生

池田省三
中央法規
p372


昨年、66歳の若さで亡くなられた池田省三氏の論文集。

池田氏は2000年の介護保険制度創設当初からの論客で、10年以上前だったと思うが、一度講演をお聞きしたことがあり、データに基づく客観的な指摘に、介護福祉の世界の中にも、こういう理論的な考え方をする人がいるんだとびっくりした記憶がある。それ以来の密かなファンである。といっても、氏の著作を一冊通して読むのは初めてであるが。

本書も、講演と同様、論旨明瞭で、鮮やか。とかく「福祉の心」といったあいまいな言葉や感情で、いろいろなことが有耶無耶にされがちな世界を冷徹な論理と数字で切り分けていくので、分析とか機能とか効率性とかを考えることが嫌いな人々からの評判はさぞかし悪かったはずである。判断停止が美徳とされる世界に数字を持ち込んでは、池の中に手榴弾を投げ込むようなもので、蛇蝎のごとく忌み嫌われて当然だ。

私自身、「介護保険制度」というのは「福祉の制度」だろうとなんとなくと思っていたが、そうではなく、「社会保険」のひとつであると指摘されて、目が覚める思いがした。

たしかに介護保険制度は、医療保険や年金保険制度と同様、一部の困窮者に対する制度ではなく、一定の資格を満たした人には、貧富の差なく誰でも受けられるユニバーサルなサービスである。サービス提供は行政の恣意的判断(措置)によって行われるものではない。

しかしながら、サービス提供者である社会福祉法人をはじめとする事業者、そして行政関係者の多くは、昔ながらの感覚のまま、この制度を福祉の制度と思っている人が多い。そういう誤解がこの制度にはつきまとっている。(さすがに株式会社系の事業所はそう思っていないだろうが。)

介護保険制度は福祉ではないということを徹底的に主張すればするほど、そういった人々からの感情的な反発を招いてきたはずである。「冷たい」「現場を知らない」「机上の論理」だといって。

分析とか機能とか効率性とかを考えようとしない心性は、採算性や経営性を考えず、ビジネスといわれることを嫌がり、料金や賃金の話を卑しむこの業界独特の言動につながっている。(その一方で従業員には「福祉の心」なるボランティア意識を押しつけ、従業員もそれを「使命」と思ったり、「美しい」と思ったりしているので、経営者にとってはまことに好都合な世界である。ルールよりもマインド重視のこの世界は、ブラック企業や、義理と人情のやくざの世界と、構造的に共通していると、あるビジネス・コンサルティングが評したことがある)

そもそも職員の給料を上げようとすれば、普通の企業だったら、どうやったら事業を拡大し、採算効率を向上させるかという話に向かうはずだが、この世界では、まず国に要求することからはじまるらしい。
いってみれば、金融業界が職員の賃上げを財務省に、トヨタなどの製造業界がそれを経済産業省に要求するようなもので、どこかおかしいのではと思うのだが、この世界ではそれがあたりまえで、実際、引き上げが行われているようだが、これがどうにも解せない。
そのへんの、お上頼りの感覚がどうもよくわからない。

これまでのいろんな事情があって、国や行政のご指導ご配慮に頼らなければ生きていけない世界なのかもしれないが、それでも、まず事業者それぞれの経営努力というのがあって、頼るのはそれからが当り前と思うのだが、そのへんはどうなんだろう。

話がそれたが、池田氏の理論の根柢のところに個人の自立、尊厳ということがあり、共助も互助も、それを前提としての話である。

個人の自立、尊厳が大事というのは、個人のプライド、矜持を個々人の基本として大事にしようということである。
それを個々人に求めようということでもある。

それは厳しい世界でもある。
自分で立つことを当然のことと思っている人には、あたりまえでの話あるが、そうでない人には、迷惑で過大な要求と感じられるだろう。そういう世界は、なにかをしてあげる、なにかをしてほしいという感情に流されがちな世界とは水と油だろう。

自分に厳しく自力で歩いていく世界より、甘い言葉で介護してもらうほうがもちろん楽である。
だが、それでは制度が持たない。グズグズの関係の中で社会が崩壊するという著者の危機感が読み取れる。

著者の気概は、懦夫をして起たしめる。
そういう迫力に満ちた一冊。

介護保険論―福祉の解体と再生介護保険論―福祉の解体と再生
(2011/03/11)
池田 省三

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