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葉山嘉樹集-24 ⑰子を護る(1)

⑰子を護る

1941年(昭和16) 47歳

太平洋戦争がはじまった年である。
真珠湾攻撃は12月3日であるが、12月9日に作者は大政翼賛会文部長の岸田国士に、「祖国の難に赴きたし。軍艦か御用船などに任務を与へられたし。返事待つ。」と電報を打っており、これをもって侵略戦争への加担の意思表明ととる人がいるかもしれないが、それはちょっと違うのではないかと思う。

母国が戦争となれば、それまでの敵対関係をひとまず中断して、一致団結して事に当たろうとするのは自然の勢いである。ことに大国アメリカ・イギリスとの戦争である。容易なことでは勝利はおぼつかない。というより国家壊滅の危険すらある。このときすでに日中戦争の四年目である。国内の生活はかなり逼迫してきている。そこで新たに英米と戦おうというのである。

しかし、当時の情勢からすれば、かならずしも絶望する状況でもなかったのかもしれない。

1931年の満州事変時点での大日本帝国の領土は、現在の日本に加えて、南樺太、朝鮮半島全域、遼東半島の一部、沖縄諸島、台湾及び周辺の澎湖諸島である。
それから10年、巨大な満州国を加えてソ連との国境に接し、北京から天津、青島、上海、広東、香港、海南島に至る中国沿海部――現在の中国の発展地域――をすべて押さえ、ベトナム、タイまで広がる広大なものとなっていた。

ヨーロッパではナチス・ドイツとイタリアがフランスの西半分とスペインを除けば大陸のほぼすべての地域を制圧し、残る敵はイギリスだけである。

いや、ソ連もいたが、この年六月にドイツ軍が侵攻を開始し、キエフ、オデッサを占領し、モスクワに向かって順調に進撃中である。

ここでドイツがイギリスを叩き、帝国日本がアメリカを打ち破れば、枢軸国による世界支配が可能、そう考えてもおかしくなかったのかもしない。

そうはいっても、アメリカはすでに世界ナンバーワンの経済大国になっていたし、イギリスも第一次世界大戦以降陰りがみえたとはいえ、インド、パキスタン、ビルマなど巨大な植民地を持つ世界帝国であり続けている。アフリカはほぼすべてが連合国側の支配下である。
その両国に、アジアのこちら側で、遠く離れたドイツ・イタリアと組んで戦いを挑もうとするのである。

今でいえばどうだろう。日本とドイツとどこかもう一国――今度はプーチンのロシアあたり――の三国で、アメリカと中国とドイツ抜きのEU及びそれ以外の全世界に戦争を仕掛けるようなものだろうか。
もちろん核兵器があるので、こういう想定はまったく無意味だが。かりに核兵器抜きの軍事力で比較したら、そういったことになるのではないか。いずれにしろ勝利は難しそうだが。
当時の情勢はもっと可能性が感じられたのだろう。

(現在のわれわれからすると、無謀きわまりない試みのように思えるが、結果を知っているからそう言えるだけだ。
当時としてもそれなりに計算した上で戦争に踏み切ったはずである。
とはいえ、日本の軍部が戦争終結の青写真をどこまで具体的に思い描いていたのかはとなると、謎である。
世界中の予想に反して日清戦争、日露戦争を勝ち抜くことができたように、今度もきっと、世界を驚かせることができると考えていたのだろうか。)

ともかく、英米という世界のスーパーパワーに挑む以上、楽観視できないことは確かだ。
世界の半分以上を相手にして、戦争が始まった。

実をいうと、みんな戦争が好きである。
始まるとわくわくする。
戦争はいやなことを忘れさせてくれる。
スリリングであればあるほど勝利は格別である。
国家の存亡をかけての戦いとくれば、これ以上の興奮はない。

それに、これまでずいぶん苦汁を嘗めさせられてきた。
ワシントン軍縮会議しかり。ロンドン軍縮会議しかり。リットン調査団しかり。ABCD包囲網。最近ではアメリカ・イギリスでの日本資産の凍結。裏では中国に武器援助を行っている。
我慢にも限界がある。鬼畜米英。膺懲撃滅。怨敵退散。マスコミも煽る煽る。

そこに真珠湾攻撃である。「敵機動部隊ヲ殲滅セリ」である。躍り上がって電報のひとつでも打ちたくなるではないか。
「ソコクノナンニオモムキタシ グンカンカゴヨウセンナドニ ニンムヲ アタヘラレタシ ヘンマツ ハヤマヨシキ」

だからこの電文はなにごとでもない。ふつうの反応だと思う。みんなこういうのが好きなのだ。
かりに日本がワールドカップで優勝したとしても、真珠湾攻撃のときの盛り上がりにはぜんぜん及ばないと思う。

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